シルクは首をふった。「その好奇心の強いアンガラク人について、もうちょっと知っておいたほうがいい。デルヴォーがかれのテントにおれたちを一日かそこらかくまってくれるそうだが、市をぐるっとまわって南からはいるなら、それも悪くない考えだと思う。トル?ホネスからの隊商のひとつに合流できるからな。そうすれば、それほど目だたない」
 ベルガラスは雨空をにらみながら考えた。「よかろう」かれは決心した。「あまり時間をむだにしたくないが、だれかにつけられているのも気にいらん。デルヴォーがどんなことを話してくれるか行ってみるとしよう」
 かれらは雨でびしょぬれの草むらを大きく半円形に進んで、市の一マイル余り南にある〈西の大街道〉のぬかるんだ道にたどりついた。贅沢な毛皮のマントにくるまったトルネドラの商人たちが六人、ぎしぎしうめく荷馬車の列をしたがえてやってきた。ガリオンたちはひかえめにその行列の最後尾につづいた。空がしだいに暗くなりはじめ、わびしい雨の夜が近づいていることを告げていた。
 テントと大天幕のあいだの細い小道は、世界各地からやってきた商人たちでこったがえしていた。くるぶしまであるスープみたいなぬかるみは、おびただしい馬のひづめや色あざやかな服装の商人たちの足で攪拌され、商人たちは雨もぬかるみもそっちのけで、どなり、叫び、押し問答しあっている。両側にたいまつやランタンをさげた、粗布つくりの正面のあいた店々には、真鍮の鍋や安物のブリキの皿と並んで目玉がとびだしそうな高価な宝が売られていた。
「こっちだ」シルクがわき道へはいった。「この数百ヤード先にデルヴォーのテントがある」
「デルヴォーって、だれ?」そうそうしい居酒屋の大天幕の前を馬で通りすぎながら、セ?ネドラがガリオンにたずねた。
「シルクの友だちさ。この前ここへきたときに会ったんだ。ドラスニア諜報部の一員だと思うよ」
 セ?ネドラは鼻を鳴らした。「ドラスニア人てひとり残らず諜報部の人間なんじゃない?」
 ガリオンはにやにやした。「たぶんね」
 青と白の縞の大天幕の前で、デルヴォーが一行を待っていた。シルクの友だちはガリオンが最後に見たときからほとんど変わっていなかった。卵みたいにつるっぱげで、表情もあのときと同じく抜け目がなく、皮肉っぽい。毛皮で縁どりしたマントをしっかり着込み、はげ頭が雨にぬれててかてかしている。「馬はうちの召使いたちが見ますよ」一行が馬からおりると、デルヴォーは言った。「おおぜいの者に見られないうちに、中へはいってください」
 かれらがデルヴォーのあとから明るく照らされた暖かな大天幕の中へはいると、かれは用心深くテントのたれ蓋をおろした。内部は手入れのゆきとどいた家とさして変わらないほど居心地がよさそうだった、椅子があり、寝椅子があり、大きな磨かれたテーブルにはすばらしい夕食の支度がととのっている。床には絨緞がしきつめられ、壁にも絨緞が張られて、天井からさがった鎖に青いオイル?ランプがぶらさがっている。四隅には赤く燃える石炭の詰まった鉄火ばちが置かれていた。デルヴォーの召使たちは全員地味な色のお仕着せを着て、無言のままガリオンたちのびしょぬれのマントをうけとると、粗布の仕切りをくぐって、となりのテントへ運んでいった。
 デルヴォーが丁重に言った。「どうぞおかけください。失礼ながら夕食の用意をさせていただきました」
 かれらがテーブルにつくと、シルクはきょろきょろしながら言った。「贅沢なもんだ」
 デルヴォーは肩をすくめた。「ちょっとした計画――プラス、大金だよ。テントだからといって、居心地が悪い必要はないからね」
「しかも携帯可能ときてる」シルクはつけくわえた。「いそいでどこかへ出発しなければならないときでも、テントならたたんで持っていける。家じゃそうはいかない」
「それもそうだ」デルヴォーは温和に認めた。「召し上がってください、みなさん。ここアレンディアの宿屋が提供する設備――と食事――がどんなものかはわかっています」
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 一行のために用意された夕食は、貴族の食卓にも劣らぬすばらしさだった。銀の皿に盛られた薫製肉の山、えもいわれぬ味わいのチーズ?ソースのなかを泳ぐゆでたたまねぎや豆や人参。最高級の白パンは焼きたてでまだ湯気をたてており、極上ワインもいろいろあった。
「おたくの料理人はかなりの才能の持ち主のようだわね、デルヴォー」ポルガラが感想を述べた。
「おそれいります、レディ」デルヴォーは答えた。「年に数十クラウン余計に払っていますし、気短かな男なんですが、それだけのことはあると思っています」
「その奇妙なアンガラクの商人のことなんだが」ベルガラスが薫製肉をふたつ皿にとりながらたずねた。
「二、三日前に六人の召使いを連れて市へやってきたんですが、荷を積んだ馬も馬車もないんです。連中が乗ってきた馬は、あわててここへきたかのように、疲れてぐったりして見えました。到着してから、その商人はまったく商売をしていないんです。召使いたちと一緒に、人をつかまえては質問するばかりで」
「特にわれわれのことをたずねているのかね」
「名前は出しませんが、長老どの、連中があなたがたのことを聞いて回っているのはほぼまちがいありません。情報を提供した者には金を払っています――大金を」
「アンガラク人と言ってもいろいろいるが?」
「自分ではナドラク人だと主張していますが、あの男がナドラク人なら、わたしはタール人ですよ。おそらく、マロリー人でしょう。中肉中背で、ひげはなく、地味な服をきています。めだって異様なのは目だけです。真っ白に見えるんですよ――瞳以外は。あとはまったく色がないんです」
 ポルおばさんがさっと頭をあげた。「盲人なの?」
「盲人? そうではないでしょう。ちゃんと見えて歩いているようですよ。どうしてですか、レディ?」
「あなたがいま説明したことは、きわめのよ。その病気をわずらった者はほとんど失明するわ」
「おれたちがここを出発してから十分かそこらでそいつに後をつけられないようにするには、なにかでそいつの気をそらして遅らせる必要があるな」シルクはクリスタルの酒杯をいじりながら、友だちを見た。「この前ここにいたときに、あのマーゴのテントにかくした例の鉛のコインはもう持ってないだろうな?」
「あいにくだがないんだ、シルク。数ヵ月前にトルネドラの国境で税関を通らなければならなかったんだ。そういうものを荷物から見つけられるのはまずいと思って、木の下に埋めてきたんだよ」
「鉛のコインですって?」セ?ネドラがとまどったように言った。「鉛でできたコインなんかで物が買えるの?」
「めっきしてあるんですよ、陛下」デルヴォーが言った。「見た目にはトルネドラの金貨そっくりなんです」
 セ?ネドラの顔が急に青くなった。「ひどいわ!」彼女は喘ぐように言った。
 セ?ネドラの反応の激しさにデルヴォーの顔に困惑が広がった。