三日後、連合軍はアルガー〈砦〉を発ち、あらかじめアルガー人側で決めておいた、アルダー川東岸の臨時野営地にむかった。一行は国別に集団をつ避孕方法くり、はば広い隊列を組んで、ひざ丈までの草を踏みしだきながら平原を進んだ。連合軍の中央ではトルネドラ軍団が、軍旗を誇らしげにかかげ、閲兵式さながらに堂々と行進していた。ヴァラナ将軍とかれの部下が加わってから、トルネドラ軍団の外見には著しい変化が起きていた。トル?ヴォードゥ近くの平原でセ?ネドラがそそのかした反乱軍は数こそ多かったが、上級将校は含まれていなかった。したがって抜きうち検査の危険が去った後は、一種のたるみが生じていた。ヴァラナ将軍は兵士たちの胸当てに赤錆が吹き出ているとか、不精髭が生えているとか、口に出して注意はしなかった。かすかに不愉快そうな顔をするだけで十分だった。軍団を指揮している百戦錬磨の軍曹たちが、将軍の顔つきを読みとるやいなや、ただちに行動にうつったからである。赤錆は落とされ、髭をそった顔が再びあたり前のことになった。髭をそったばかりの顔には殴られた跡がしばしば見られ、休暇が終わったことを、鉄拳軍曹たちが納得させるために活を入れたあとを無言のうちにあらわしていた。
 トルネドラ軍団の一方の端には、鎧をきらめかせたミンブレイト騎士団が行進していた。かれらの槍の穂先にそびえる森から吹いてくる風が、色とりどりの槍旗をはためかせていた。若居屋再按揭者たちの顔は熱狂に輝いていたが、それ以外には何もなかった。ミンブレイト人にまつわる恐るべき定評は、かれらに思考らしきものがまったく欠如していることが原因ではないかと、セ?ネドラはひそかに思っていた。ほんの少し激励するだけで、ミンブレイト軍は極寒季に山へも登れば、潮の流れだって変えかねないのだ。
 トルネドラ軍団のもう一方の端に行軍しているのは、緑と茶色の軍服を着たアストゥリアの弓射兵だった。この配置はわざと考えられたものだった。アストゥリア人とて、民族的にいとこにあたるミンブレイト人よりも知性に恵まれているわけではない。だがこのアレンディアの不仲な勢力を引き離すために、他の国の軍隊があいだに入るのが賢明とされていたのである。
 アストゥリア人の前には、いかめしい顔つきをしたリヴァ人たちが、艦隊とともに行動していない少数のチェレク人を引き連れるようにして行軍していた。チェレクの艦隊につき従う者たちは、現在崖地のふもとで船を引きあげるための準備にまわっていた。ミンブレイト軍の側面を固めるのは、色とりどりの手製の軍服に身を固めたセンダリアの民兵だった。そして列のしんがりには軍事物資を山と積みこんだフルラク王の荷馬車隊の列が、わだちをきしませながら、地平線のかなたまでえんえんと続いていた。一方アルガーの諸氏族は、大きな集団を組まず、小集団ごとに予備の馬やなかば野生化した家畜を引き連れて、軍勢のわきにつき従っていた。
 鎧兜をつけ白馬にまたがったセ?ネドラは、ヴァラナ将軍とくつわを並べていた。彼女は自分の大義名分をわからせようとしていたが、うまくいかなかった。
「いいかね、お嬢さん」将軍はやれやれといったようすで言った。「わたしはトルネドラ人で、しかも軍人だ。どちらの立場をとっても、あいまいなものには心惹かれないのだよ。今のところ一番の気がかりは、この大軍を食べさせなければならないということだ。きみたちの物資供給路は山々を越えてアレンディアまで達している。供給路としては長すぎやしないかね、セ?ネドラ」
「そのことだったら、フルラク王が考えていてくれるわ、おじさま」セ?ネドラはいくらかすました口調で言った。「わたしたちが行軍している間は、センダー人が〈北の大街道〉を通ってアルダー城館に物資を輸送してくれているわ。そこから荷をはしけに積み替えて、川を上り、野営地に運んでいるのよ。わたしたちの行く先には何エーカーもの物資集積所が設けられているはずよ」
 ヴァラナ将軍はうなずいた。「センダー人なら補給要員としては最適だ。だがかれらは十分な兵器を持っているのかな」
「そういえば、誰かがそんなことを言っていたわ」セ?ネドラは答えた。「騎士のための予備の矢だとか、槍のことだとか。でも、あの人たちは専門家だから、わたしもそんなに聞こうとは思わなかったの」

「それはいかんね、セ?ネドラ」ヴァラナはきびしい口調で言った。「軍隊を動かす者は、どんなささいなことでもきちんと把握しておくべきだ」
「でも、わたしが軍隊を動かしているわけじゃないわ。わたしはかれらを率いてるだけで、実質的に動かしているのはローダー王よ」
「では、かれの身に何かが起きたらどうするんだね」
 セ?ネドラは青ざめた。
「おまえは戦争をするのだよ、セ?ネドラ。戦争では誰が傷つけられたり、殺されたりするかわからないのだ。おまえもそろそろ自分のまわりで何が起こっているのか、注意をはらった方がいいね。枕で耳をふさいだまま、戦争に参加したのでは、むざむざ勝利の機会を逃すようなものだぞ」そう言って将軍は彼女の顔を見た。「指をしゃぶるんじゃないよ、セ?ネドラ。形が悪くなるからね」
 川にそって設営された野営地はとてつもなく広大で、その中央にはずらりと並んだ天幕と、きちんと積み上げられた装備類が林立する、フルラク王の物資集積場がもうけられていた。川の土手にそって、平底のはしけが長い列になって係留され、荷物のおろされる日をじっと待っていた。
「きみの部下たちはずいぶん奮闘したようじゃないか」防水布に覆われた物資の山や、きっちり箱詰めされた装備類のあいだの狭い通路を縫うようにしてローダー王は、ずんぐり太ったセンダリア国王に呼びかけた。「よく何を運べばいいかわかったな」
「アレンディアにいるときに、全部記録しておいた。だいたいなにが必要なのかは見当がつく――長靴や、矢、予備の剣その他もろもろといったものだ。取りあえず今運びこんでいるのは、ほとんど食べ物だ。アルガーの家畜たちは新鮮な肉を供給してくれるだろうが、肉ばかり食べていては兵士たちが病気になるからな」
「まるで兵士たちを一年分食べさせるぐらいもありそうじゃないか」アンヘグ王が言った。
 フルラク王はかぶりをふって訂正した。「四十五日分だよ。ここには三十日分の食糧を確保し、ドラスニアが崖地の上に築いている砦にも二週間分置いておきたい。それが安全策のぎりぎりの線だ。荷船で食物が毎日補給されるかぎり、いつも十分な量は確保できるものと思う。いったん数字をはじきだせば、あとは簡単な計算だけだ」
「一日にひとりの人間がどれくらい食べるのか、どうやって計算するのかね」ローダーはうず高く積み上げられた食物の荷を見やりながら言った。「わたしは、ときとしてやけに食が進むことがあるんだが」
 フルラクは肩をすくめた。「平均で計算することにしている。なにしろ大食漢もいれば、小食の者もいる。だが結局ならしてみれば、いつもだいたい同じ量が消費されているものだよ」
「フルラクよ、きみはときどき鼻持ちならないほど、現実的すぎるぞ」アンヘグが言った。
「誰かがやらねばならんことだ」
「センダー人には冒険心とい。計画をたてずに成り行きまかせにしたことはないのかね」
「まずあり得ないだろうな」センダリアの王がおだやかに答えた。
 物資集積所の中央近くに、連合軍やその支援部隊の各指導者のために、大天幕が数多く張られていた。午後なかば、入浴して服を着替えたセ?ネドラ王女は、現在の情況を知るために主天幕に入った。
「かれらは現在一マイルほど下流の地点で停泊中だ」バラクがいとこに報告している最中だった。「錨を下ろしてからもう四日にもなる。一応グレルディクが指揮にあたっているが」
「グレルディクだと」アンヘグ王は驚いたような顔をした。「やつには何の公式な権限も与えられてはいないはずだが」
「だがやつは川を知っている」バラクは肩をすくめた。「長年にわたり、水があって金もうけのできる場所ならどこへだって船を出してきたんだからな。船が錨を下ろしてからというもの、水夫たちは酒を飲む量を控えているそうだ。連中も事態をよく承知しているのだ」
 アンヘグ王は含み笑いをした。「それでは連中の期待にぜひともそわなければな。ローダー、崖の上にわたしの船を引きあげる作業は、いつ頃から開始できるのかね」
「一週間ぐらい先には」ローダー王は午後の軽食をぱくつきながら言った。